2018年2月6日火曜日

別天神五柱神 〔162〕

別天神五柱神


<本稿は加筆・訂正あり。こちらを参照願う>
古事記の中をグルグル回って冒頭の段に舞い戻った。これよりしばらく、所謂神話の記述にお付き合い願うことになる。古事記記述のなかで最も難解な文字列に遭遇することになるであろうが、臆せず前に・・・である。

「天地開闢の記述と言われる段である。別天神と名付けられた五人の神と神世七代、計十二名の神々が登場する。正に神様であって古事記が神話を語る書物と言われる所以である。従来よりそう解釈されて来たでのであるが、少々視点を違えて紐解いてみようかと思う。何故なら古事記全般を通じて神様の名前は彼の居場所、役割(古事記の中で)、加えてその人となりを示しているからである」

…と、まぁ、意気込みを述べたところで早速本文に・・・。

古事記原文[武田祐吉訳]

天地初發之時、於高天原成神名、天之御中主神訓高下天、云阿麻。下效此、次高御巢日神、次巢日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。
次、國稚如浮脂而久羅下那州多陀用幣流之時流字以上十字以音、如葦牙、因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神此神名以音、次天之常立神。訓常云登許、訓立云多知。此二柱神亦、獨神成坐而、隱身也。上件五柱神者、別天神
[昔、この世界の一番始めの時に、天で御出現になつた神樣は、お名をアメノミナカヌシの神といいました。次の神樣はタカミムスビの神、次の神樣はカムムスビの神、この御三方は皆お獨で御出現になつて、やがて形をお隱しなさいました。
次に國ができたてで水に浮いた脂のようであり、水母(くらげ)のようにふわふわ漂つている時に、泥の中から葦が芽を出して來るような勢いの物によつて御出現になつた神樣は、ウマシアシカビヒコヂの神といい、次にアメノトコタチの神といいました。この方々も皆お獨で御出現になつて形をお隱しになりました。以上の五神は、特別の天の神樣です]

高天原の「天」は「云阿麻」と註記される。冒頭の天地の「天」とは異なる意味を持つことが示されているのであろう。「アマ」と読んで「高天原」=「タカマガハラ」とされ、架空の説から現実にあった存在場所の比定まで、未だスッキリとはしていない。

天=阿麻

既にこの「高天原」を現在の長崎県壱岐市、壱岐島にあったと紐解いた(参照:天照大神・須佐之男命)。そうすると「天」が付く名前の神々の居場所を求めることができるようになる。「天」が架空なら多くの神々もまた架空の存在になってしまう。逆に全てとは言わないまでもその神々の居場所が求められない「天」は「架空」であろう。それを念頭において「天」=「阿麻」の意味を読み解くと…、

阿麻=阿(台地)|麻(磨:擦り減った)

…「凹凸が擦り減らされたような表面を持つ台地」のことを示している。溶岩台地が侵食作用で擦り減り、決して平坦ではないが極端な凹凸もない地形を表現していると解釈される。玄界灘に浮かぶ壱岐島以外にこの地形を求めることは極めて困難であろう。


古事記は全編を通じて、「読み」を表す漢字の文字列によって地形を示す…これを「地形象形」と名付ける…記述を行っていると紐解いた。従来より難解、意味不明などとして解釈されて来なかった文字列が指し示すところを読み解いてきたが、当然神話の時代も同様と考える。

少々余談になるが「阿麻比賣」が後に登場する。意富に居た比賣であるが、これの「麻」=「麿」=「丸」と紐解き、居場所を求めることができた。原報を参照願う。

Ⅰ. 別天神:三柱神

この高天原に三柱神が現れたと記述される。天之御中主神、高御巢日神巢日神である。この神々の名前は何と読み解けるのであろうか?…

御中主神=御(御する)|中(中心)|主神

…「天」の中心を統御する主な神と読める。従来より解釈されてきたところと大差はないようである。三柱神の中でも最も高位な位置付けであろう。

高御產巢日神=高(高所から)|御(御する)|產(生み出す)|巣(住処)|日(日々の)|神

…人々が寄り集まり住まう住処を生み出すために高所から(高い位置から)統御するのが日々の神と読み解ける。神倭伊波禮毘古(神武天皇)が畝火山の麓に座するまで、幾度となくしゃしゃり出る神である。名前に刻まれた使命を全うしたのであろう。彼らは大倭豊秋津嶋に住処を造り、君臨することになる。

神產巢日神=神(雷:雨+田)|產(生み出す)|巣(住処)|日(日々の)神

…「田に雨をもたらし人々が寄り集まり住まう住処を生み出す日々の神」と読める。この神の名前に二つの「神」の文字がある。間違いなく前者は「雷」であろう。とすれば、「雷=雨+田」に分解できるのである。雷の文字は正に自然現象そのものを表現し、畏敬し、そして恵みの雨を誘起するという人が生きるために不可欠な存在なのである。

後述される須佐之男命の段に「天」を追い払われ、出雲に降臨する際、大氣津比賣神から食物を調達しようとする。その比賣神の身体から種々の食物が生えてくるのをせっせと神産巣日神が取り集めて種にするという記述がある。

また大国主命の段に常世国から「神產巢日神之御子、少名毘古那神」が登場する。大国主命に稲作技術を伝えに来たと紐解いた。巢日神の名前に刻まれた役割は「食料調達」だったのである。

常世国から来た少名毘古那神、ならば少なくとも巢日神も常世国にいたであろうし、おそらくは他の二柱神も、であろう。常世国に身を隠し、必要な時にしゃしゃり出る。神出鬼没の役回りである。


*「少名毘古那神」とは?…「名」=「名代(領地)」と解釈すると…、


少(少ない、欠けている)|名(名代)|毘古(田を並べて定める)|神


…「領地を持たずに田を区画整備する」神と紐解ける。稲作の技術指導者の役割を示しているようである。案山子を教えたら、サッサとご帰還、納得である。(2018.03.29)


後に「神」=「稲妻」と解釈する例が登場する。詳細はこちらを参照願う。

Ⅱ. 別天神:二柱神

次いで二柱神が登場する。「宇摩志阿斯訶備比古遲神、次天之常立神」と記される。この二柱神に割り当てられた役割は何であろうか?…名前に刻まれているのである。何とも奇妙な名前の持ち主から紐解いてみよう。

宇摩志阿斯訶備比古遲神*に含まれる「阿斯訶備」=「葦牙」と思われる。「牙」=「カビ」と読むことが知られている。意味は武田氏の通り「葦の芽」、「芽」=「艹+牙」である。「阿斯訶備」の前後の文字を一文字一文字を解釈すると…「宇」=「山麓」、「摩」=「近い」、「志」=「之:川の蛇行の象形」、「比」=「並ぶ」、「古」=「固:かたく、しっかりと」、「遲」=「治水した(された)田」となる。


宇摩志=宇(山麓)|摩(近い)|志(川の蛇行)

…「山麓の近くで川が蛇行した」ところと読み解ける。

比古遲神=比(並ぶ)|古(しっかりと定める)|遲(治水された田)

…「並べてしっかりと治水した田」を意味するようである。通して眺めると…宇摩志阿斯訶備比古遲神は…、


山麓の近くで川が蛇行したところに葦牙が並んで
   しっかりと治水された田の神

「阿磨」の地でそんな場所は見つかるのか?…下図を参照願う。



現在の地名が壱岐市芦辺町である。「葦」=「芦」違いは穂が出ているか否やとのこと。関連付け、差し支えないであろうか…。更に読み落としてはならないことは「天=阿麻」が付かないことである。この地は「阿麻(磨)」ではなく「宇摩志」なのである。後代で記述される「天」の地名の紐解きで述べてみよう。

邇藝速日命の子孫で物部氏の祖と伝えられる「宇摩志麻遲命」上記と同様にして春日の地に比定した。案外壱岐の「宇摩志」と繋がっているのかもしれない、何の根拠もないが・・・。

天之常立神には「天」が付くので「台地」に関連する神であろう。「常立」は何と読み解くか?…


常立=常(大地)|立(盛り上がる)

…「台地」の中で更に盛り上がったところを意味すると紐解ける。壱岐島の北西部一帯を示すのであろう<追記>。上記の「常世国」には「天」は付かない。


現地名は壱岐市勝本町である。「勝」は「渡し舟」と「ものを上に持ち上げる」象形とある。「立」に繋がる意味を有していると思われる。この地に天照大神と須佐之男命との宇気比で誕生した「正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命」に含まれる三つの「勝」は「常立」に関連付けられるようである。

これら二柱神は壱岐島、特にその北半分を作り上げ、統治した神と伝えているのである。別天神五柱神はあくまで壱岐島に関わる神々であり、彼らの子孫が為したことを古事記が記述したというシナリオが貫かれていると思われる。現在も芦辺町、勝本町とに二分される地域となっている。使われる文字の意味の関連も併せて古事記の記述との深い繋がりを感じさせるものであろう。

冒頭において古事記は「住処探し」を記述したものと伝えている。安住の地を求めて東に向かった一家の歴史が描かれている。その貴重な記録を一文字一文字紐解いて行く、記述の「ルール」を明らかにしながら不詳と言われる「神」の名前を紐解いてみよう。


<追記>


2018.03.05
「天安河之河上之天堅石」の考察から「炭焼の岩脈」が浮かび上がって来た。溶岩が地層の割れ目に侵入して固まったものとある。「岩脈」=「常立(大地が立った)」表現であると紐解いた。



「天之常立神」はこの岩脈に基づく神と推察される。彼らは岩脈を見て、大地の成り立ちは「立っている」と思い付いたのであろう。「盛り上がる」よりももっと自然を直接的に捉えていたと思われる。また、それを見たままに表現したものであろう。

「岩が立った台地」と「川が蛇行する平地」、それが基本の地形との認識と思われる。「天」は間違いなく壱岐島だと告げているのである。
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宇摩志阿斯訶備比古遲神*

「阿斯訶備」の解釈修正。「訶」=「言(耕地)+可(谷間)」の解読に基づく。推定した場所には変更なし。

宇摩志阿斯訶備比古遲神に含まれる「阿斯訶備」=「葦牙」とされるようである。「牙」=「カビ」と読み、意味は武田氏の通り「葦の芽」、「芽」=「艹+牙」である。だがこの四文字だけを抜き取って読むとは思われない。

阿斯訶備」も含めて文字を一文字一文字を解釈すると…「宇」=「山麓」、「摩」=「近い」、「志、斯」=「之:川の蛇行の象形」、「阿」=「台地」、「訶」=「言+可」=「谷の奥の耕地」(これは下記に補足する)、「備」=「整える」、「比」=「並ぶ」、「古」=「固:定める」、「遲」=「治水した(された)田」を用いて紐解く。

①宇摩志阿斯訶備比古遲神

「宇摩志」は…、
宇(山麓)|摩(近い)|志(川の蛇行)

…「近くに蛇行する川がある山麓」と読み解ける。「阿斯」は…、


阿(台地)|斯(蛇行する川)

…「蛇行する川がある台地」と読める。「訶備」は…、


訶(谷間の耕地)|備(整える)

…「谷間の耕地が整えられた処」と読める。「比古遲神」は…、


比(並ぶ)|古(定める)|遲(治水された田)

…「田を並べて治水する」と紐解く。纏めると「宇摩志阿斯訶備比古遲神」は…、


近くに蛇行する川がある山麓と蛇行する川がある台地で
谷間の耕地が整えられ田を並べて治水する神

…と解釈される。(2018.06.28)
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