伊邪那岐の十拳剣から生まれた神
伊邪那岐・伊邪那美の二人の共同作業で生んできた神々、ついに火神を生んだために愛しき伊邪那美が亡くなってしまう。怒った伊邪那岐が火之迦具土神を斬ってしまう。そこからまたまた様々な神が生まれるたと告げる。何となく解りやすいような命名なのであるが、果たして・・・。
古事記原文[武田祐吉訳]…
於是伊邪那岐命、拔所御佩之十拳劒、斬其子迦具土神之頸。爾著其御刀前之血、走就湯津石村、所成神名、石拆神、次根拆神、次石筒之男神。三神次著御刀本血亦、走就湯津石村、所成神名、甕速日神、次樋速日神、次建御雷之男神、亦名建布都神布都二字以音、下效此、亦名豐布都神。三神次集御刀之手上血、自手俣漏出、所成神名訓漏云久伎、闇淤加美神淤以下三字以音、下效此、次闇御津羽神。
[ここにイザナギの命は、お佩きになつていた長い劒を拔いて御子のカグツチの神の頸をお斬りになりました。その劒の先についた血が清らかな巖に走りついて出現した神の名は、イハサクの神、次にネサクの神、次にイハヅツノヲの神であります。次にその劒のもとの方についた血も、巖に走りついて出現した神の名は、ミカハヤビの神、次にヒハヤビの神、次にタケミカヅチノヲの神、またの名をタケフツの神、またの名をトヨフツの神という神です。次に劒の柄に集まる血が手のまたからこぼれ出して出現した神の名はクラオカミの神、次にクラミツハの神であります。以上イハサクの神からクラミツハの神まで合わせて八神は、御劒によつて出現した神です]
御刀前
用いた剣の先に付いた血が「湯津石村」に走り就いたと言う。一字一字の紐解きを行ってみよう。
湯(飛び跳ねる)|津(川が集まる)|石(岩)|村(集まる)
…「岩が集まったところに川が集まるように当たって飛び跳ねる」の意味と読み解ける。迦具土神の血が当たって飛び散り神々が生まれた、という意味であろう。ここで用いられた「湯」の意味はは「熱い水」ではない。ましてや「温泉」では決してない。水(液体)が飛び跳ねる様を表す文字である。
石拆神=岩を二つに割る神
根拆神=根を引き裂く神
石筒之男神=岩を刳り抜く神
…火の玉の迦具土神の血は「鉄」を模したものであろう。農耕作業に不可欠の器具を示していると思われる。鉄が溶けたものも「(溶)湯」と言われるそうである。「温泉」は「湯」が表す一例のこと。鉄の湯、まさか古事記が由来?・・・。
岩やら大木の根っこやら、何とかしなくてはどうしょうもないものを「剣」から生まれた神が助けてくれると述べている。それぞれの出自の表現は比喩として土地を切り開いて行く上において不可欠の要素を示しているのである。
岩やら大木の根っこやら、何とかしなくてはどうしょうもないものを「剣」から生まれた神が助けてくれると述べている。それぞれの出自の表現は比喩として土地を切り開いて行く上において不可欠の要素を示しているのである。
御刀本
剣の元の方に付いた血も同じく「湯津石村」に届き、神々が生まれる。「速」=「束」、「雷」=「雨+田」、「布都」=「沸水(湧水)」として紐解くと…、
甕速日神=甕(瓶)を縛り止める日々の神
樋速日神=樋(トイ)を縛り止める日々の神
建御雷之男神=雷(雨水)を御する勇猛な男神
別名
建布都神=布都(湧水)を勇ましくする神
建布都神=布都(湧水)を勇ましくする神
豊布都神=布都(湧水)を豊かにする神
…雨水、貯水、利水の神が生まれたと解釈される。火の神から水ができる?…現在では最もなこととして受け入れられるであろう。水の蒸発と凝集のサイクルの中で人々が水を利用していることは当然のこととして理解されている事柄なのである。がしかしそれを古代に?…実体験の中から得ていた知識と思う他にないようである。
古事記史上最強の戦士との呼び声が高い「建御雷之男神」の誕生である。が、彼は雨、湧水を司る神なのである。勿論親父は刀鍛冶でそれなりの剣を持っていたことは間違いないのであろうが・・・。彼が登場する名場面は、一つは出雲の国譲りと通称されるところと、神倭伊波禮毘古が熊野の山で彷徨った時に彼自身ではないが「布都御魂」の剣を差し出すというところである。
出雲では八重事代主命、建御名方神を抑えて「言向和」するのであるが、これは何を意味しているのであろうか?…大国主命一族は肥河の氾濫を御してその地を豊かにすることができなかった。川の水を治められなかったのである。一方熊野では山中で迷った時の救いの手は、湧水であろう。
確かに建御雷之男神は最強である。だが、古事記が示しているのは「剣」ではなく、雨・湧水の「水」を操る神なのである。雨は多くても困る、飲水でなくては返って身体を壊す、そんな勝手な人の要求に応える最強の神として記述されている。
雷、剣の上に座るなど、安萬侶くんの戯れに見事に翻弄されているのが実情であろう。彼の真価は身近な「水」を司るところにあったと紐解ける。いや、いずれにしても全く恐ろしい神である。
手俣
次いで手の股から流れ出た血も神を生む。「俣」だから「谷」、多分そうでしょう。「淤加美」とは何であろう?…調べると「龗」と判る。ならば「龗」=「雨+龍」と分解すれば…、
闇淤加美神=闇(谷)の(龗:大きく蛇行する川)の神
闇御津羽神=闇(谷)で寄り集まった川の端を御する神
…谷間の川の状態を司る神のようである。これも上記と同じく迦具土神から出て来たと言う。水は命の源泉である。淤加美神は幾度か登場することに気付き、結果として「龍」=「蛇行する大河」を意味することが判った。この神は肥河(現北九州市門司区の大川)、天安河(現壱岐市の谷江川)に生息していたと紐解けた(2018.03.11追記)。
いくら神様がいても多過ぎることはない。それしてもこの神生みの背景のある自然への理解に驚嘆するのである。
まだまだ火之迦具土から神が誕生するようであるが、本日はこれくらいで・・・。
いくら神様がいても多過ぎることはない。それしてもこの神生みの背景のある自然への理解に驚嘆するのである。
まだまだ火之迦具土から神が誕生するようであるが、本日はこれくらいで・・・。