2018年2月19日月曜日

迦具土神から生まれた神 〔170〕

迦具土神から生まれた神


自らが生まれることによって母親を亡くしてしまった火之夜藝速男神(又の名を火之炫毘古神、火之迦具土神)を父親が斬ってしまうという、不幸な運命を背負った神…いえ、彼は途轍もなく恐ろしい神であって扱いを間違えるとトンデモナイことになる・・・そんな意味も込められた記述であろうか。その迦具土神の身体から神が生まれたようである。

古事記原文[武田祐吉訳]…、

所殺迦具土神之於頭所成神名、正鹿山上津見神。次於胸所成神名、淤縢山津見神。淤縢二字以音。次於腹所成神名、奧山上津見神。次於陰所成神名、闇山津見神。次於左手所成神名、志藝山津見神。志藝二字以音。次於右手所成神名、羽山津見神。次於左足所成神名、原山津見神。次於右足所成神名、戸山津見神。自正鹿山津見神至戸山津見神、幷八神。故、所斬之刀名、謂天之尾羽張、亦名謂伊都之尾羽張。伊都二字以音。
[殺されなさいましたカグツチの神の、頭に出現した神の名はマサカヤマツミの神、胸に出現した神の名はオトヤマツミの神、腹に出現した神の名はオクヤマツミの神、御陰に出現した神の名はクラヤマツミの神、左の手に出現した神の名はシギヤマツミの神、右の手に出現した神の名はハヤマツミの神、左の足に出現した神の名はハラヤマツミの神、右の足に出現した神の名はトヤマツミの神であります。マサカヤマツミの神からトヤマツミの神まで合わせて八神です。そこでお斬りになつた劒の名はアメノヲハバリといい、またの名はイツノヲハバリともいいます]

「迦具土神」の身体から生じた神は「山津見」の神であることが判る。前記の大山津見神の解釈を適用すると「山が寄り集まったところ(山塊)を見張る」神を意味していると思われる。「火之迦具土神」は「土器を作る神」と紐解いた。

火之(火で)|迦(重ね合わせる)|具(器)|土|神

…「火で土の紐を重ねた隙間を合せて器を作る」神と紐解いた。日常生活に置いて最も重要な神ではなかろうか。その神に付随する神々が生まれるのは至極当然の成り行きであろう。様々な場所を示しているものと思われるが・・・「頭」からは…、

正鹿=正(真直ぐ延びた)|鹿(麓)

…「山塊の真直ぐ延びた麓を見張る神」となる。「胸」からは…、

淤縢=淤(泥で固まった)|縢(縁をかがる:山裾)

…「山塊の裾が泥で固まったところを見張る神」となる。「腹」からは…、

奧=奥(奥まった)

…「山塊の奥まったところを見張る神」となる。「陰」からは…、

闇=闇(谷)

…「山塊にある谷を見張る神」となる。左手」からは…、

志藝=志(之:蛇行した川)|藝(尽きる)

…「蛇行した川がある山塊の尽きるところを見張る神」となる。「右手」からは…、

羽=羽(端)

…「山塊の端を見張る神」となる。「左足」からは…、

原=原(平らな野原)

…「山塊の麓にある平らな野原を見張る神」となる。「右足」からは…、

戸=戸(山の入口)

…「山塊の登り口を見張る神」となる。人体を山稜に見立てた命名である。上記と同じく身体の背骨にそって四神そして手足で四神の計八神の誕生が繰り返されている。

「迦具土神」は様々な地形に人が土器を作り、またそれを利用して日常の食のための煮炊きをして住まうためには不可欠のものである。その行為が木材の豊富にある地で行われていたことを記述しているのである。人々が畏敬するべき対象を示したとも言える。鉄を扱う人々への感覚に通じるものがあっただろう。

山塊の谷間、様々な形状の山麓及び裾野と、実に丁寧に古事記が描く世界の山塊の地形を示している。言い換えると、地形象形に用いる漢字を例示しているとも考えられ、古代の地形を示す貴重な記録とも思われる。現在の多くの神社の祭神が如何なる状況なのかを知る由もないが、神社の場所と祭神とが繋がっていることを望むばかりである。


天之尾羽張

使った刀が「天之尾羽張」亦名「伊都之尾羽張」と告げる。どうやら地名らしき表現である。

尾(山稜の端)|羽(羽のように)|張(広がり出る)

…と紐解ける。これでは類似の地形の多い「天」の地で特定することは不可能に近い。又の名「伊都」=「伊(神)|都(集まる)」とすると…、

神が集まる地で山稜の端が羽のように広がり出ているところ

…と解釈される。「天」で神が集まるところは現在の壱岐市勝本町の神岳(天香山)周辺であろう。または「天安河之河原」の周辺であろう。


上図の勝本町新城西触と書かれた羽状の台地を指し示したと思われる。刀の銘にはその産地が入るようである、常にではないが…。今の常識と変わらぬ記述が興味深い。

ところで、この名前(地名)が重要な情報を提供してくれることになる。後の記述になるので、その時に・・・。