言八十禍津日前・八十禍津日神・大禍津日神
男淺津間若子宿禰命(允恭天皇)紀の事績に「味白檮之言八十禍津日前」の文字列が出現する。この天皇の和風諡号そのものが難読なのであるが、この紀に登場する名称も、なかなかに凝った作りが多い。中でも上記の文字列は複雑怪奇とも言えるであろう。
通説は「災厄の神」と簡単に処理するが、ここでは「神」が付かない…忘れた?…「日(ヒ)=神霊」とする?・・・「日神」はダブルのでは?・・・間違いなく、「災厄」の意味を重ねながら地形を表していると思われる。
結果として、この文字列そのものに加えて実に豊かな情報提供していたことが解った。それは含まれる「禍津日」が地形象形として極めて特徴的であり、それ故に比定場所を一に特定することに繋がるのである。允恭天皇から一気に伊邪那岐の禊祓の時に遡って紐解いてみよう。
言八十禍津日前
古事記原文[武田祐吉訳]…、
於是天皇、愁天下氏氏名名人等之氏姓忤過而、於味白檮之言八十禍津日前、居玖訶瓮而玖訶二字以音定賜天下之八十友緖氏姓也。又爲木梨之輕太子御名代、定輕部、爲大后御名代、定刑部、爲大后之弟・田井中比賣御名代、定河部也。天皇御年、漆拾捌歲。甲午年正月十五日崩。御陵在河內之惠賀長枝也。
[ここに天皇が天下の氏々の人々の、氏姓の誤つているのをお歎きになつて、大和のウマカシの言八十禍津日の埼にクカ瓮を据えて、天下の臣民たちの氏姓をお定めになりました。またキナシノカルの太子の御名の記念として輕部をお定めになり、皇后樣の御名の記念として刑部をお定めになり、皇后樣の妹のタヰノナカツ姫の御名の記念として河部をお定めになりました。天皇御年七十八歳、甲午の年の正月十五日にお隱れになりました。御陵は河内の惠賀の長枝にあります]
氏姓の誤りを正す、とは文字通りの意味に加えて様々な憶測が生まれる。気に入らぬ輩の粛清とも言えるし、姻戚間の争いのようにも解釈されそうである。この前後の流れを思うと的外れでもなそうな感じであるが、確証はない。「玖訶瓮」を使うのだから根深いものであったことは間違いないであろう。
行った場所が「味白檮之言八十禍津日前」と記される。「言八十禍津日」の「八十禍津日」は伊邪那岐が黄泉国から帰って、日向の橘小門で禊ぎした時に生まれた神(八十禍津日神など)である。多くの禍を意味する神であってそれを祭祀することによって当事者の禍をも受け持ってくれるという有難い神と読み解ける。
確かに「八十禍」はそう読める文字列なのだが、他の文字も含めた解釈とすると、しっくり来ないところもある。順次紐解いてみよう・・・。
❶味白檮
「味」=「口+未」と分解して「山稜を横切る道の入口」と紐解いた。「味御路」で登場した「山稜を横切る三つの路」である。すると「味白檮」は…、
白檮(白く輝く切り株)のある山稜を横切る道の入口
…となる。次の文字列の区切り方が重要である。以下のような解釈とする。
❷言八十
「言」=「大地を切り開いて耕地を作る」と読み解いた。「一言主神」等々多くの例がある。では「八十」は何を意味するのか?…「多くの」とすれば地形的な情報を示さない。「八十」=「谷が十字に交差する」と紐解く。すると「言八十」は…、
十字に交差する谷を切り開いて作った耕地
…となる。
❸禍津日
「禍」は「災い」とは読まない。「禍」=「示+咼」と分解できる。「咼」は「頭蓋骨」の象形とされる。ならば「禍」=「頭蓋骨を載せた台(山)」を表すことになる。「津」=「集まる」、「日」=「炎の地形」とすると…、
頭蓋骨を載せたような形の山が集まる山稜が炎の地形を示すところ
…と紐解ける。そんな地形の前に上記の耕地がある、と述べているのである。
<味白檮之言八十禍津日> |
「味白檮」はその峠に向かう道のある山麓、現地名は田川郡香春町採銅所須川辺りと推定される。
「味」=「山稜を横切る路の入口」と安萬侶コードに登録である。
採銅・精銅に必要な火力をほぼ木材に依存していた時代、周囲の山は切り株だらけであったろう。この地の一見して目に入る光景は「檮」であったことを伝えているのである。
余談だが、「味見峠」の幾つかの由来が当地に掲載されているとのことだが上記に従えば「味見峠」=「味(白檮)が見える峠」である。残存地名に登録しておこう。
その他の記述など全体を通しては允恭天皇紀を参照願う。上記の地形象形としての紐解きが伊邪那岐の禊祓から生まれた神々の名前へと繋がった。勿論その場所「竺紫日向」の詳細な地形を表現していたのである。
八十禍津日神・大禍津日神
古事記原文[武田祐吉訳]…、
於是詔之「上瀬者瀬速、下瀬者瀬弱。」而、初於中瀬墮迦豆伎而滌時、所成坐神名、八十禍津日神訓禍云摩賀、下效此。、次大禍津日神、此二神者、所到其穢繁國之時、因汚垢而所成神之者也。次爲直其禍而所成神名、神直毘神毘字以音、下效此、次大直毘神、次伊豆能賣神。幷三神也。伊以下四字以音。
[そこで、「上流の方は瀬が速い、下流の方は瀬が弱い」と仰せられて、眞中の瀬に下りて水中に身をお洗いになつた時にあらわれた神は、ヤソマガツヒの神とオホマガツヒの神とでした。この二神は、あの穢い國においでになつた時の汚垢によつてあらわれた神です。次にその禍を直そうとしてあらわれた神は、カムナホビの神とオホナホビの神とイヅノメです]
通説のように文字が示す意味に従って読んでみると以下のような解釈となろう。
「八十禍津日神」、「大禍津日神」は「八十=多くの」、「大=大きな」として「禍津日神」は…、
「八十禍津日神」、「大禍津日神」は「八十=多くの」、「大=大きな」として「禍津日神」は…、
禍(災い)|津(集まる)|日(日々の、日常の)|神
…「津日=~の神霊」と訳されるようであるが、敢えて意味を加えてみた。「汚垢」から生じた神と伝える。「神直毘神、大直毘神、伊豆能賣神」が「禍」を直す神として挙げられる。
神(雷:稲光)|直(真直ぐ)|毘(助ける)|神
大(大きな)|直(真直ぐ)|毘(助ける)|神
伊豆(膨らんだ凹凸の表面)|能(の)|賣(生み出す)|神
…前二者は「禍(摩賀:マガ)」を真っ直ぐにするのを助ける神と解釈できる。「毘」を「日」に置き換えることは誤りである。この例だけでも従来の解釈の杜撰さが解る。と言うか、手抜きをしたのではなく、そもそも解釈する能力に欠如した状態である。
「豆」は「禍」によって「表面が凹凸ができて曲がった状態」を示すものと紐解ける。中に含まれた「禍」を「賣=中にあるものを外に出す」、膿を絞り出すような様相を表していると思われる。古事記表記の肌理細やかさであろう。
上記のように「禍」に対応する神々として解釈することができるようであるが、地形を表す「神」「伊豆」「毘」などの文字が並んでいるようでもある。地形を表す表現として紐解いてみよう。
❶八十禍津日神・大禍津日神
「八十」=「八(谷)+十(十字に)」=「谷が十字に交差したところ」、「禍」=「頭蓋骨のような形をして丸く小高くなったところ」、「日」=「炎の地形」、「大」=「山頂が連なる尾根からの谷間が広がったところ」とすると…、
…と紐解ける。
❷神直毘神・大直毘神
「神」=「稲妻の形」「大」は上記と同様とし、「直」=「従う」、「毘」=「田を並べる」とすると…、
…と紐解ける。
❸伊豆能賣神
そのままの表記で…「賣」=「生み育てる」…、
…と読み解ける。こうしてみると日向の典型的な地形(耕作地)を示し、その大部分の領域をカバーすることが判る。
「汚垢」の禊祓から誕生した神々、それは稲作には欠かせない「汚泥」に繋がるものであろう。安萬侶くんが伝えたかったのは、やはり日向の地の詳細であったと判る。それをあからさまに表現することなく記述したのである。ちょっと、やり過ぎたかな?…「味白檮之言八十禍津日前」だけのヒントでは…安萬侶くん。
地形に従った耕作のやり方、それぞれに堪能な神を周到するとは筋の通ったことである。ものの捉え方に「上中下」を持って来ることに通じるであろう。
「豆」は「禍」によって「表面が凹凸ができて曲がった状態」を示すものと紐解ける。中に含まれた「禍」を「賣=中にあるものを外に出す」、膿を絞り出すような様相を表していると思われる。古事記表記の肌理細やかさであろう。
上記のように「禍」に対応する神々として解釈することができるようであるが、地形を表す「神」「伊豆」「毘」などの文字が並んでいるようでもある。地形を表す表現として紐解いてみよう。
❶八十禍津日神・大禍津日神
「八十」=「八(谷)+十(十字に)」=「谷が十字に交差したところ」、「禍」=「頭蓋骨のような形をして丸く小高くなったところ」、「日」=「炎の地形」、「大」=「山頂が連なる尾根からの谷間が広がったところ」とすると…、
丸く小高い凸部が集った炎の地形の傍らにある
谷が十字に交差したところ・
尾根からの谷間が広がったところ
…と紐解ける。
<禍津日神・直毘神・伊豆能賣神> |
❷神直毘神・大直毘神
「神」=「稲妻の形」「大」は上記と同様とし、「直」=「従う」、「毘」=「田を並べる」とすると…、
稲妻の形に従って田を並べる
尾根から広がる谷間に従って田を並べる
…と紐解ける。
❸伊豆能賣神
そのままの表記で…「賣」=「生み育てる」…、
僅かに凹凸のあるところから生み育てる
「汚垢」の禊祓から誕生した神々、それは稲作には欠かせない「汚泥」に繋がるものであろう。安萬侶くんが伝えたかったのは、やはり日向の地の詳細であったと判る。それをあからさまに表現することなく記述したのである。ちょっと、やり過ぎたかな?…「味白檮之言八十禍津日前」だけのヒントでは…安萬侶くん。
地形に従った耕作のやり方、それぞれに堪能な神を周到するとは筋の通ったことである。ものの捉え方に「上中下」を持って来ることに通じるであろう。