速秋津日子・速秋津比賣の神生み:八神
この二人の神が更に神を生んでいくことになる。汽水湖に関連する彼らは川と海の両方の性格を持合せている。この認識は重要である。そして古代において最も重要な地域であることを示しているのである。記述はそれに従って生まれた神の名前が述べられる。
考えれば彼らは固有の地名が潜められた命名である以上一般化する必要があるわけで、それに従えば当然更なる神を生まざるを得ない、とも言える。この場所「秋津」の重要性を示しているのである。日本書紀の編纂者もこの場所を動かさなかった。と言うか動かせなかった。伊邪那岐・伊邪那美が生まなかった嶋に関する錯綜の古代史における不動点である。
古事記原文[武田祐吉訳]…
考えれば彼らは固有の地名が潜められた命名である以上一般化する必要があるわけで、それに従えば当然更なる神を生まざるを得ない、とも言える。この場所「秋津」の重要性を示しているのである。日本書紀の編纂者もこの場所を動かさなかった。と言うか動かせなかった。伊邪那岐・伊邪那美が生まなかった嶋に関する錯綜の古代史における不動点である。
古事記原文[武田祐吉訳]…
此速秋津日子・速秋津比賣二神、因河海、持別而生神名、沫那藝神那藝二字以音、下效此、次沫那美神那美二字以音、下效此、次頰那藝神、次頰那美神、次天之水分神訓分云久麻理、下效此、次國之水分神、次天之久比奢母智神自久以下五字以音、下效此、次國之久比奢母智神。自沫那藝神至國之久比奢母智神、幷八神。
「因河海、持別而生神」と記述される。川と海とが入り交じる複雑な地形をこんな風に表現している。やはり巧みな記述と思うべきであろう。地形を「漢字」で表現した、これが古事記である。
沫那藝神・沫那美神
「沫」=「飛沫」と解釈すると…「沫那藝神」「沫那美神」は…、
沫(飛沫)|那藝(凪:穏やかな状態)|神
沫(飛沫)|那美(波:波立つ状態)|神
…川と海とが入り交じる場所での飛沫の状態を表しているのであろう。二つの状態を示していると思われる。
頰那藝神・頰那美神
「頬」=「表面」と解釈すると…「頰那藝神」「頰那美神」は…、
頬(水面)|那藝(凪:穏やかな状態)|神
頬(水面)|那美(波:波立つ状態)|神
天之水分神・國之水分神
「水分」=「水を配る」の意と解釈されている。通説に言われるように水源、川の分岐するところの神と思われる。「天」は壱岐島であり、「國」はその他の土地を示していると考えられる。
天之久比奢母智神・國之久比奢母智神
「久比奢母智」が難解のようである。通説には「瓢箪」のこととあり、水を取り扱うのに柄杓として瓢箪を使ったことに由来するとされる。その他の解釈は殆ど見当たらないようでもある。この解釈では「神」とするには無理があろうし、最後の「智」が引っ掛かるのである。
「久比」=「杙、切り株」、「奢」=「有り余るほど、豊か」、「母」=「母なる大地」、「智」=「知恵(職)」とすると神武天皇紀に登場する三嶋湟咋(溝杭)を連想させる。「茨田(松田)」=「棚田」作りの名人であって、用水路の作成に関わった人物と紐解いた。「久比奢母智」は…、
杙(切り株)が母なる大地を豊かにする知恵(職)がある
…と紐解ける。古事記が描く水田には不可欠な神と言える。ただ、この命名では真意はなかなか伝わらないであろう。「天」「國」は上記と同様。生まれた神々は水源から河口に至るまでに流れる水を制御する役割を担っていたと判る。
古事記の中で「奢」の文字の使用を幾度か目にする。「豊」なのだが地名と区別する目的があったのだろう。これも固有の表現として記憶しておきたいものの一つである。