2018年2月8日木曜日

神世七代:二柱神・雙十神 〔163〕

神世七代:二柱神・雙十神


別天神五柱神、特別の天の神の誕生に続いて「成神」と記される神々が登場する。因みに通説では別天神の初めの三柱神を「造化三神」残りの二柱神を「別天津神」とし、神世七代の神は「初めは抽象的だった神々が、次第に男女に別れ異性を感じるようになり、最終的には愛を見つけ出し夫婦となる過程をもって、男女の体や性が整っていくことを表す部分だと言われている」などと説明されているようである。

さて、そうであろうか…別天神も抽象的ではなかった…と思うのだが・・・。「成神」の解釈も含めて述べてみよう。

古事記原文[武田祐吉訳]…

次成神名、國之常立神訓常立亦如上、次豐雲上野神。此二柱神亦、獨神成坐而、隱身也。
次成神名、宇比地邇上神、次妹須比智邇去神此二神名以音、次角杙神、次妹活杙神二柱、次意富斗能地神、次妹大斗乃辨神此二神名亦以音、次於母陀流神、次妹阿夜上訶志古泥神此二神名皆以音、次伊邪那岐神、次妹伊邪那美神。此二神名亦以音如上。
上件、自國之常立神以下伊邪那美神以前、幷稱神世七代。上二柱獨神、各云一代。次雙十神、各合二神云一代也。
[それから次々に現われ出た神樣は、クニノトコタチの神、トヨクモノの神、ウヒヂニの神、スヒヂニの女神、ツノグヒの神、イクグヒの女神、オホトノヂの神、オホトノベの女神、オモダルの神、アヤカシコネの女神、それからイザナギの神とイザナミの女神とでした。
このクニノトコタチの神からイザナミの神までを神代七代と申します。そのうち始めの御二方は獨立ちであり、ウヒヂニの神から以下は御二方で一代でありました]

神世二世代の二柱神と対となった五世代の十柱神の計十二名の神々が登場する。これらの神々は「成神」と記述される。「成」=「成し遂げる」即ち実行する神々という意味であろう。別天神五柱、中でも最初の三柱神の指示の下での実務担当の役割を担う神々である。


Ⅰ. 神世二世代:二柱神

「國之常立神」と「豐雲野神」の二神と記され、「獨神成坐而、隱身也」単独で成し遂げる神であってその姿は見えない、というところであろうか。「常立神」は上記と同じく大地を盛り上げる神の意味であるが、「國」=「囲われた(ある特定の)地域」を示すと解釈される。大地に凹凸を付ける、山あり谷ありの地形を作り上げる神と理解できる。


豐雲野神=豐(豊かな)|雲(雨+云)|野(平らな地)|神

…「云」=「雲」の象形である。「豊かな雨の雲をかかる平らな地の神」と解釈できる。この二神は不特定な大地に山、谷を造り、平野に雨をもたらす神を表現していると判る。自然が成せることであり、人知の及ばぬ領域だからこそ「隱身」としたのであろう。

余談だが、1,300年経った今でも地震予知はお手上げ状態、毎年のように洪水・土砂崩れで尊い人命が失われる。今から1,300年後の人々は古事記の時代と現在とを僅かな差として捉えていることであろう。


Ⅱ. 神世五世代:雙十神
 
五組十神が登場する。「隱身」とは記されず、いよいよ具体的な役割を担う神々であろう。一組づつ紐解いてみよう。

①宇比地邇神・妹須比智邇神


「此二神名以音」と註記されるなら一文字一文字解いてみる。古事記の中で表現されるそれぞれの文字の意味を紐解いてきたが、それを適用する。「宇」=「山麓」、「比」=「並ぶ」、「地」=「田畑」、「邇」=「近い」…とすると「宇比地邇神」…、


宇(山麓)|比(並ぶ)|地(田畑)|邇(近い)|神

…「山麓と並ぶ田畑が近接する神」となる。古事記に頻出する急傾斜の山裾に広がる田畑を守る神様であろう。谷間の「茨田(松田)」=「棚田」から始まる古代の水田の開拓に携わる重要な神なのである。「須比智邇神」は「須」=「州」、「智」=「地:田畑」として…、


須(州)|比(並ぶ)|智(地:田畑)|邇(近い)|神

…「州(川中島)と並ぶ田畑が近接する神」州が作る広々とした平地、これも早期から活用された耕地であったし、海の幸にも恵まれた土地である。多くの宮が作られ人々が住まう場所でもあった。兄と妹(夫と妻)で山と川の近隣に開拓された田地に関わる神と伝えているのである。

②角杙神・妹活杙神

「角」「活」は何と解釈するか…「杙」と関連して…であろう。古事記は「木」を山稜の地形象形として表記する。山稜の広がり方を木の幹、枝で表すのである。詳細はこちらを参照願う。「杙」=「棒」即ち棒状の…尾根の分岐が少ない…山稜を示していると思われる。とすれば、上記の二神「角杙神」「活杙神」は以下のような地形を表すのではなかろうか…、


角(二股に分かれた山稜)|杙(棒状の主稜線)|神
活(舌のように延びた山稜)|杙(棒状の主稜線)|神

…である。「活」=「氵+舌」に分解する。「水があり舌のような形」と解釈する。山稜の裾野に人々が多く住まう場所があった。山稜は極めて多様に分岐する。その形を様々なものに模して表現する。その中で「二股」と「平坦」の地形は多く見られる。そこは豊かな住環境を提供して来たのである。

③意富斗能地神・妹大斗乃辨神

「斗」=「柄杓」と紐解いた。古事記に「斗」の文字は延べ41回出現する。地形象形の表現として極めて多用された文字なのである。三方を山に囲まれて一方が海又は川に開口する地形が大半を占める。それは実にその地を特定する上において有用であり、以降も幾度となく述べるように地名、番地など現在では当然と思われるものがなかった時代に安萬侶くん達が編み出した手法である。「意富斗能地神」は…、

意富(大きい)|斗(柄杓の地)|能(の)|地(柄杓の底、田畑)|神

…「意富斗」が示す古事記中最大の「斗」を持つのが出雲国である。故に「出雲=大(多)」となったのである。妹「大斗乃辨神」は何と解く?…

大(大きい)|斗(柄杓の地)|乃(の)|辨(山腹)|神

…柄杓を形成している取り囲む山腹を「花弁」に模したと紐解いた。兄は柄杓の底の田畑、妹は山稜及びその谷間に絡む神として表現されいている。古代は「斗」の地に住み着き開拓し子孫を育んだことを示している。従来の古事記解釈に「斗」を柄杓の地形象形とした例は無いようである。このこと一つで、古事記は全く読み解けていなかったと言い切れるのである。

④於母陀流神・妹阿夜訶志古泥神

「於母陀流」とは如何なる意味であろうか?…「於母|陀流」と区切ってみると…、


於母(面:地面)|陀(崖)・流(広がる)|神

…「地面に崖が広がっているところ」の神と紐解ける。崖に挟まれた深い谷間などを示している。妹「阿夜訶志古泥神」は如何に読み解けるのか?…「阿」は古事記に頻出する(延べ207回)。「台地」と解釈する。「志」=「之:蛇行した川の象形」、「古」=「固」とすると…、


阿(台地)|夜(谷)|訶(河)|志(蛇行した)|古(しっかり定める)|泥(水田)|神

…「台地の谷の河が蛇行しているところをしっかり定めた水田」の神となろう。兄は地形そのものに絡み、妹はそこに流れる川に絡む、山麓の地、山稜の地、柄杓の地、崖の囲まれた地、そして流れる多様な川、古事記が伝える古代の人々の佇まいの地である。決して扇状地の扇の先にある広々とした平野ではない。

最後に現れるのが…、

⑤伊邪那岐神・妹伊邪那美神

「伊邪那」=「誘う」と解釈されて来たようであるが、それに従う。上記の神々を「誘い導く」役割を担った神である。この二人によって具体的な場所に神々が導かれたと古事記が伝えている。大八嶋、六嶋の島生みの記述に始まる詳細な記述に繋がっていくのである。

こうして眺めてみると、人々が住まい、田を耕し生きていく環境、その中でも重要な地形を述べていることが判る。現在のように扇状地が広がり、挙句には海を埋め立てた地に住まう時代ではない。古事記の時代に重要であった地形、だからこそ「成神」として記述されたと思われる。

冒頭の通説とやらの的外れを議論する気は毛頭ないが、古事記は「自然」(人も含め)をその「表記方法」で表現しているのである。古事記の「神」はいわゆる「神」ではない。「神」=「示(捧げる台)+申(稲妻)」であり「稲妻を畏敬し捧げる」人なのである。そんな見方で古事記を読み下して行こう・・・。