硫化水銀の結晶系

硫化水銀の結晶系

<ブログ投稿記事より抜粋>

赤(辰砂)と黒(黒辰砂)の朱の間にある朱を加熱すると言っている。化学式で示すと下記のようである。

赤色:HgS(三方晶系) 黒色:HgS(単軸晶系) 色の違いは結晶系の違い。Hg():二価水銀

HgS(三方晶系) ⇄ HgS(単軸晶系)

不純物のない状態では熱可逆反応で、加熱によりエネルギー的に不安定な単軸晶系()にシフトするが、加熱を止めると安定な三方晶系()に戻る。約340℃でこの可逆反応が進行する。

眉墨に使うのであるから黒色、しかも艶のある黒でなければならない。外気に曝されていない「下」の朱()は不純物が多い、例えば一価水銀のHg2S、その他の金属化合物(Se)。外気に曝されてHgSになり、また表面に出ることで雨などで水洗され、除去される。

Hg2S → HgS + Hg

この不純物を含むことにより赤色への変色が抑えられ、艶のある黒色を維持できる。変色と艶との兼ね合いである。だから中間層を加熱利用して眉墨を引くのである。また、火傷をしない程度の温度で塗布適性も向上する。

矛盾する現象を実用という境界条件の中で両立させるのが化学技術の使命である。古事記の記述は化学の原点を表記している。ダラダラと書き連ねるペーパーのアブストラクトより簡潔明瞭である。

話を戻すと、当然渡金に欠かせない水銀(液状金属)と金とのアマルガムを作り、そのアマルガムを塗布後加熱して水銀を揮発させ、金張りを形成する、これが眩いばかりの仏像を世に出現させることになる。その水銀を製造していたのである。現在は全く製造されていない。

HgS + O2 → Hg + SO2

香春岳で産出する銅、鏡を作るのに不可欠な、「朱砂」また渡金に必要水銀、勿論、薬としての利用もあったであろう(殺菌作用)、国家権力に直結する立場を獲得する、自然の流れであったろう。